「おかげさまで」という感謝の気持ちを大切に
老舗に光る若い感覚 高知と愛媛で腰据えた事業
大正十年創業の乾佛具店は、高知県きっての老舗(しにせ)仏具店。『心』を大切にした営業で、顧客の気持ちをとらえている。業界で「乾学校」と呼ばれる独自の経営戦略を持つ同社をけん引する四代目・乾将晃(貴昭)氏は、平成八年に三十歳で社長に就任した。
若い感覚を前面に出しながらも、先代より受け継いだ「お客様思い、社員思い」の姿勢を大事にしている。今回は、時代にフィットした事業展開を意欲的に行う乾社長に話を伺った。
まずは、創業時のことからお聞かせ下さい。
私どもの創業は大正十年で、曾(そう)祖父の乾梅吉が創始者です。安楽寺さまや薫的さんの前の洞ヶ島で商売をしていました。四国霊場を巡るお遍路さんでにぎわっていたころは、お札や納経帳、線香、白衣などを主に扱っていたと聞いています。
乾貴昭さんは三十歳の若さで社長になられたとお聞きしました。若くして社長になられたので、ご苦労や、取引先やお客様への影響もあったのではないですか。
平成八年六月に父である前社長から譲り受けるかたちで就任したのです。京都の同業者のもとで四年間修行した後帰高して、本店に配属となりました。現場を経験しながら、商売の流れや経営の勉強をもっとしたいと思っていた矢先のことでした。
取り扱っている商品が仏壇や仏具ということもあり、営業先でご年輩のお客様から「若い者に任せて大丈夫なのか」という声も何度か聞きました。ですが、先輩社員が未熟な私をもり立ててくれましたし、また私も商品について猛烈に勉強しました。そのかいがあってか、今では「若いのによく勉強している」と、言っていただけるようになりました。
努力家なんですね。社長が経営の上で心掛けている事柄があればお教えください。
私が一番大切にしているのは「心」です。お客様が毎日手を合わせる商品を扱っているので、どんな小さな商品でも「心」を込めて、両手で取り扱うよう社員全員に指導しています。
また、当社のモットーは「誠実・正確・確認」。忘れがちな道徳心を大切にしたいと考えています。だたの商人ではなく「よい商人」になるために、このモットーを実践して、信用から信頼に結びつけていきたいですね。
愛媛への出店など精力的な店舗展開を行っておられますが、今後はどのような事業展開をお考えになっていますか。
高知に五店舗、愛媛に二店舗と着実に拠点を増やすことができました。現在は、拠点の数を増やしたり他地域へ進出したりすることよりも、高知と愛媛にある現在の店で、しっかり地域に貢献しようと思っています。
その後、次の展開を考えたいですね。現在は、無理に会社を成長させようとするのではなく、組織としてじっくりと熟成させていくことを優先しています。しかし、社員の将来を考えると新規の出店も重要な課題です。一店づつというのは効率が悪いので、時期を見て数店同時にと考えております。
堅実な経営戦略を打ち立てているのですね。
この業界はバブル崩壊時に打撃を一度受けています。ここにきて、買い換えのムードも強くなってきています。しかし当社は、バブルの恩恵も受けることが少なく、また社員一人ひとりの頑張りのおかげで、急激な落ち込みもなく、堅調な経営を続けています。
その背景には、さまざまな工夫がなされているのでしょうね。
強いていえば、納品させていただいた後もお客様のお役に立ちたいという姿勢を貫いていることでしょうか。お線香、おローソク一つからご自宅にお届けしています。満足していただいた方は、必ず新たにお客様を紹介してくださいます。
県内の店舗では、このような口コミによる来店がとても多い。当社独自のサービスの効果でしょう。また、お客さま一人ひとりに営業マンを担当させます。私どもはお客さまとの人間関係を大切にし、それが形になるよう実践しています。
自分の担当者がいれば、安心して、頼み事もできますね。しかし、多くの宗派があるように専門的な知識が必要となってくるので、スタッフは大変でしょう。
当社の場合、老舗の看板を背負っているだけに、お客さまの期待も大きい。特に若いスタッフには、とまどいも多いことでしょう。研修も充実させています。各宗派のお寺さんを招いた勉強会を随時開催したり、月一回のペースで社員セミナーを開いています。
外部から講師を招くのとは違って、和気あいあいとした雰囲気ですが、社員を講師とするので、みんな恥をかかないように必死で勉強しますから、効果も大きい。社員にも好評です。この業界は実に奥が深いので、私自身、一生が勉強だと思っています。
私は毎日、本店の前を通って通勤しているのですが、スタッフのみなさんが朝早くから掃除をされているのを見かけます。これも社員教育の一環ですか?
掃除は私たちの大切な仕事の一つです。「心」を磨くことを行っているだけで教育と言うほど大げさなものではありません。また毎年、メーカーや問屋さんからの依頼で、数年間研修生をお預かりしています。通常、研修といえば都会でと考えられがちですが、当社の積極的な姿勢が評価を受けているのだと思っています
ところで、ライフスタイルの変化により、仏壇や仏具への関心も薄れてきているように思いますが。
正直なところ、無関心な方が多いです。よく分家の方は「家に先祖はいない」とか「仏壇は本家にあるから必要ない」とも言われます。しかし常日ごろから、ご先祖さま、ご本尊さまを大切にする気持ちを持つことも大事ではないでしょうか。
ご先祖あってのわれわれなのです。そこを忘れてしまっている人が多いのは残念です。住宅事情の変化も影響があります。最近主流の洋風建築には、従来のお仏壇では何とも具合が悪い。だから、一般的なお仏壇だけでなく、家具調や薄型、小型など住環境に合わせて選べるよう品揃えを充実させています。
種類が増えることは、消費者にとってはうれしいですね。最後に二十一世紀に向けての社長の夢をお聞かせください。
交通インフラの整備により、県外も含め広範囲からお客さまにきていただけるようになりました。これは逆にお客さまが満足しなければ離れていくことにもなります。当店では、お客さまの満足を第一に、サービスも含め全ての面でこれからも研鑽(さん)を続けていきます。
売り上げを日本一にという考えではなく、サービス、中身で一番になりたい。お客さまへの「信用、信頼」を大事にすることが会社を支えてくれている「社員の幸福」にもつながると確信しています。
今後のご活躍を楽しみにしています。今日は本当にありがとうございました。
平成10年当時
企画・制作 高知新聞社広告局
生き生き企業シリーズ 輝風NO.9 老舗 乾佛具店 より