老舗 乾佛具店

名誉会長インタビュー

「おかげさで」の気持ちを持ち続ける場所を提供するのが仕事。

インタビュアー
最近は、家庭に仏壇を置いて先祖を供養したり、神棚をお祀りして拝むという風習が廃れてきているように思われますが。
名誉会長
昔ほど当たり前にとらえられていませんね。なかにはお仏壇をご不幸の象徴のように考えてらっしゃる方もおいでになります。

しかし決してそうではなく、お仏壇は自分の生き方を見つめ直す場所であり、一人で生きているのではなく、まわりの人や自然によって生かされているのだという気持ちを悟らせていただく場所だと思います。人は「おかげさまで。」という気持ちを忘れてはいけません。

店のキャッチフレーズにも「朝に礼拝、夕に感謝」とうたっているんですが、私どもの商売は、言い換えればそういう場所を提供することなんです。大きいもの、高額なものでなくてもかまいません。家庭にお仏壇があれば、心のゆとりにもつながると思います。

インタビュアー
気持ちのうえで分かっていても、洋風建築などの普及で、様式的にも仏壇を置く場所がなくなってきているのではないでしょうか。
名誉会長
それでも必要だと思われる方はいらっしゃり、業界も新しい時代のお仏壇、たとえば家具調のものなど、デザイン的な工夫をしています。

合理的な経営で商品のコストダウン

インタビュアー
そういえば洋風の家でも、壁の中に仏壇のスペースをとる場合もありますね。
乾仏具店としても、なにか新しい時代への試みを行っていらっしゃいますか。
名誉会長
良質の商品を安く提供させていただくために、5年前から年に1回ずつ、「産地直売会」「全国仏壇フェア」というイベントを行っています。

大量に仕入れることによってコストダウンを図ったものですが、来年の開催日をお尋ねくださるお客さんがいるほど定着しておりまして、回を重ねるごとに実績を上げています。輸送コストについても、商品が多い方が効率がよく、またセールス社員はイベントの時期に合わせて注文をとるなど工夫しています。

商品を運んできたトラックをカラで返さず、こちらの卸部門の荷物の輸送に利用しさらにコストを押さえています。少しでも安く商品を提供するために、できる限り合理的な方法をとるのがうちの方針なので、取引先との接待などもありません。その分お客さまにご奉仕できるというわけです。

インタビュアー
そういうお考えは前会長であり、ご主人であった、故乾一重さんの影響が大きいのではないでしょうか。
名誉会長
そうですね。主人も経費の無駄使いは一切しませんでしたし、とにかく物を大切にしておりました。

一番の思い出に残っているのは、昔のお仏具は木の枠で厳重に梱包して送られてきていたんですが、夏の暑い日に汗をぬぐいながら、梱包に使われている釘を1本1本丁寧に抜いて、また真っ直ぐに伸ばしていたことです。ですから私は、何かが新しくなるたびに、主人のそんな姿を思い出して、申し訳ないような気持ちになります

日本の心で外国人とも交流本物の国際人・先代一重会長

インタビュアー
失われつつある大切な日本の精神ですね。私も存じておりますが、とても進歩的な方でしたから、現代のリサイクルブームを先取りしていたのかもしれません。
高知商業卒業後は、日本郵船に入社して、海外勤務が多かったため、英語も堪能でいらっしゃいましたね。
名誉会長
はい。外国にお友達がたくさんおりまして、文通したり、お互いに行き来しておりました。遊びにいらしてくださった時、主人はよく温泉などに招待しておりましたね。また高知で外国人の姿が珍しかったころから、「乾仏具店に分かりやすい英語をはなすおじいさんがいる」ということが、口コミで広まって、面識のない外国の方も訪ねてきてくださいました。
インタビュアー
海外旅行も度々されていたようですね。
名誉会長
亡くなる直前も計画をたてて楽しみにしていたんですよ。息子が「旅費を出させてくれ」と申し出ると、「旅費は自分で出すが、そのかわりにパーティー用のタキシードを新調してほしい」と言っていました。83才の時です。
インタビュアー
いつまでたっても紳士なんですね。ご趣味はお持ちでしたか。
名誉会長
趣味は私と同じで働くことでしたが、音楽はよく聴いていましたね。自分でもバイオリンを弾くのが好きで、夕食後、よく皆に聴かせてくれていたものです。亡くなってからのことですが、主人の部屋を整理していると、ビートルズの「レットイットビー」のカセットといっしょに「これは名曲だから、私の葬儀の後に流してください」という手紙がみつかりました

前会長の思いが未来にも生き続ける

インタビュアー
ところで、ご主人は最後まで会社に出られ仕事をなさっていたそうですね。
まさにご主人の血が通った会社であるといえますが、それを引き継いだ新会長として、これからの展望をお聞かせください。
名誉会長
主人は亡くなる前に、私や息子たちに、「自分を磨くために、常に信心深くあれ」と申しておりました。また「他人の不幸をみて自分を慰めるようなことはせず、いっしょに悲しんであげなければいけない」とも申しておりました。亡くなった日は3月17日の彼岸の入りでしたが、それは信仰厚きが故と、私には思えてなりません。主人が大正11年に卒業した小学校の卒業アルバムを見ていますと、将来何になりたいかという質問に皆が答えているんですが、主人はそこで「よい商人」と答えているんです。

そしてその気持ちを、生涯持ち続けておりました。私もそうなりたいと思っています。商人には誰でもなれますが、「よい商人」となると難しいでしょう。主人の実践してきた通り「誠実・正確・確認」をモットーに、1歩ずつ近づいていきたいと思っています。生涯をかけて畑を耕し種をまいたのですから、一輪でも多くの花を咲かせるのが私の使命だと考えています。

インタビュアー
ある意味ではこちらの会社はご主人そのものですから、前会長のお話抜きには語れませんね。
思いで話の途中、涙ぐまれることもありましたが、本当にいいお話を聞かせていただきました。本日はどうもありがとうございました。

高知新聞 平成4年7月1日掲載 より