社長:当社は1921(大正10)年に、曽祖父である乾梅吉が、高知市洞ヶ島町の薫的さまの門前で、お遍路用品などの仏具を販売する店として、「乾梅吉商店」を創業したのが始まりです。以来、二代目一重、三代目良臣、そして私と受け継いできました。
専門店として仏壇を取り扱ったのは祖父、一重です。一重は高校卒業後、大阪の日本郵船に入社しましたが、1938(昭和13)年に家業を継ぐために帰高しました。一重は6人兄弟の長男だったこともあり、日本郵船にいた間高知に仕送りを続けていましたが、母はそのお金には手を付けず貯金し、一重が帰高した際に手渡しました。
一重はこのお金を元に京都や大阪から仏壇を仕入れ、これを契機に、仏具の取り扱いが始まりました。
そして、一重は私たちが毎日朝礼で唱和している以下のような社訓を定めました。
【社訓】
誓の言葉
一、より誠實に
一、より正確に
一、より確認を
誓って本日も努力します
この社訓は、商売哲学として全社員の心に日々、刻まれています。一重は、「良い商人」になることを目指していました。高校時代には将来の夢として、「良い商人」になることと答えています。「良い商人」とは、将に「より誠実に、より正確に、より確認を」を実践する者のことで、この精神を大事にしていると、周囲から認められ、信用が生まれるとともに、信頼を得られる「良い商人」になることができるという考え方です。

その他、物をとても大事にしていました。当時、京都や大阪の仕入れ先から送られてくる仏壇は、木枠で厳重に梱包されていたのですが、店の前で開梱し、梱包に使われている釘を一本、一本丁寧に抜いて、真っ直ぐに伸ばして再利用していました。当時私は、開梱後の木枠周辺に釘が残っていないか、磁石を使って確認していました。
1973(昭和48)年には、有限会社乾仏具店に改組し、1980(昭和55)年に安芸店、1986(昭和61)年に土佐道路店を開設しました。そして、1990(平成2)年に知寄町店、1994(平成6)年に松山店、1996(平成8)年に創作仏壇製作所乾「匠」工房徳島工場を開設しました。その後、1997(平成9)年に松山に2店舗目、2000(平成12)年に中村店を開設し、2016(平成28)年に現在の株式会社に組織変更しました。
私は4代目で、東京の大学を卒業後、京都の仏具店に勤務し、その後、27歳の時に帰高して当社に入社、3年後の1996(平成8)年に社長に就任しました。
仏壇の由来などについて教えてください。
社長:祖父から聞いたのですが、現在の仏壇の形ができたのは江戸時代の初期だそうです。キリシタン弾圧と同時期に、幕府が民衆の所属寺を決めたことから、家に仏壇を置くようになりました。それまでは、お床に掛け軸をかけ、花を供えたり、香を焚いていたといいます。
また祖父は、「仏壇は家の中心に置かれ、ご本尊やご先祖を祭るだけでなく、自身の生き方を見つめ直し、自然や周りの人に生かされていることを感謝する場所。信仰心の厚い香川県では家を建てるときに、購入する仏壇の予算を別に取っておくほどだ。」と言っていました。香川県では、普通、建築費の1割程度を充てるといいますから、何百万円もの仏壇になります。香川県人の信仰心の厚さを物語っていると思います。
その他、祖父は仕事柄、電話でお布施の相場を尋ねられることが多く、「お寺への寄付のように思っている人も多いが、先祖に差し上げるものであるから、出来るだけ先祖への気持ちを込めてほしい。もともと、お布施とは感謝の気持ちを布で差し上げていたことから、僧侶がそれで袈裟を作ったことに由来する。」と答えていたそうです。
30歳の若さで社長になられたとお聞きしましたが、若くして社長になられたので、ご苦労されたのではないですか。
社長:とにかく周囲の諸先輩の方たちに、盛り上げていただいて、色々なことをやらせていただくとともに、任せていただきました。例えば、私は京都の仏具店に勤務していた頃に、寺院関係の勉強をし、それなりの知識を身に付けていましたので、寺院関係の勉強会をすることを提案し、取り上げてもらいました。
また、仏壇の中の仏具は当時サービスで提供していました。しかし、その仏具自体も職人が気持ちを込めて作ったものですし、当然高価なものもありますので、きちんとお客様に説明して、代金をいただくべきではないかと提案したところ、代金をいただくようになりました。
その他、寺院向けの営業をやってみたいと相談すると、寺院部を立ち上げてくれたりもしました。これも偏に、暖かく見守り、理解を示してくれた諸先輩のお陰であると、心から感謝しています。
そして、私は、これらの経験をとおして失敗しても、諦めずにやり続ければ、必ずいつかは成功に繋がるということを学び、非常に貴重な経験をすることができたと思っています。
人材育成について教えてください。
社長:三つお話したいと思います。
一つ目は、セミナーの活用です。社員教育については、定期的に外部セミナーを受講しています。学んだことを持ち帰って勉強会を開催し、実践面で活かしています。
基本的に、お客様は担当者を選ぶことはできませんので、誰が担当になってもお客様に失礼のないよう、専門的な知識を正確に身に付けることが大切であると考えています。
二つ目は、情報共有の徹底です。会社は日々お客様と接するので、様々な問題が出てきます。人間は失敗をしますし、人間がする以上、問題は起きます。しかし、問題が起きるのが問題ではなく、その発生した問題をどのように解決するかが問題です。実際問題が生じた際には、生じた問題を「ラッキーコール」と捉え、全員で共有し、解決しています。具体的には、ミーティングを開き、お客様からお叱りを受けたこと、接客で失敗したことなどを発表し合っています。一方でこのミーティングでは、お互いのモチベーションの向上につなげるべく、喜んでいただいたこと、お客様をご紹介していただいたことなども発表し合っています。
できるだけ、問題があったことを発表してほしいですが、あまりオープンになっていないのが実情で、そこをうまく吸い上げていくのが私の務めであると考えています。
そのためには、日頃のコミュニケーションがとても大切です。私自身の過去の失敗についてオープンに話すなどして、話しやすい雰囲気の醸成に努めています。

三つ目は、経営理念の中にありますが、商品一つ一つに真心を込めて取扱い、販売するということの徹底です。私どもが扱う商品は、お客様が手を合わせるものですので、気持ちを込めて両手で扱うようにしています。

名刺の一番上にも「価値ある商品心の販売」と書いてあるとおり、質の高い、価値ある商品の販売は勿論のことですが、心のこもった接客を全社員に徹底しています。最近の仏壇店では半額セールや5割・6割引きのお店もよく見かけますが、弊社では先代より受け継いで来ました『価値ある商品心の販売』をモットーに「お客様にいくらの商品を買ってもらったかではなく、それ以上にお客様がどのような気持ちでお帰り下さったか」を社員一人一人が考え努力しております。